Nephrologist

腎臓内科医を対象とした抄読会の内容をお届けします。どのように論文を吟味し臨床に役立てるのか意識することで、論文は知識をupdateする情報ではなく、臨床力をupgradeするツールとなります。

進行したCKDへの腎専門医診療は、患者予後と関連するか?

Receipt of Nephrology Care and Clinical Outcomes Among Veterans With Advanced CKD.

Am J Kidney Dis. 2017; 70: 705-14.

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=28811048

 

1.背景   

K/DOQI, KDIGOガイドラインではeGFR<30で腎専門医への紹介が推奨されており、腎専門医への早期紹介が透析導入後の死亡リスク低減に寄与するという報告は複数ある。一方で、腎専門医診療によるESRDへの進展抑制に関して検証した報告は、DM患者や単一施設患者を対象とした研究に限られ、広く検証されていない。

 

2.論文の定式化(PICOPECO

P:進行期CKD(eGFR≦30)の外来患者

E:腎専門診療を受けている(専門医群)

C:腎専門診療を受けていない(非専門医群)

O:主要項目 ①死亡 ②ESRD

  副次項目 腎関連パラメーター

 

3.研究デザイン 統計解析

過去起点コホート研究(Landmark解析)

生存時間分析(Coxモデル, Fine-Grayモデル)

傾向スコア(PS)マッチングによる追加解析

 

4.結果の吟味

米国退役軍人39669人が対象。平均年齢76歳, 白人74%, DM56%, うっ血性心不全30%, 担癌20%, うつ21%, eGFR25。62%が腎専門医の診療を受けておらず、非専門医群ではHb, K, Ca, P, Albのコントロールが有意に不良。

 

平均観察期間2.9年で死亡37%、ESRD11%。専門医群の方が、死亡リスクは低いが(HR 0.88[95%CI 0.85-0.91])、ESRDへの進展リスクは高い(HR 1.48[1.38-1.58])。PSマッチでの解析結果も概ね同様。

 

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 研究結果は妥当なものか?(内的妥当性) 

①腎専門医による診療の内容は?

本研究では腎専門医による具体的な診療内容はわからない。しかし専門医群では腎疾患関連のパラメーターは(それ程大きくはないが)有意に改善している。

 

②専門医群と非専門医群で背景は同等か?

非専門医群では、高齢者やVA copay, 心不全, 認知症, うつ, 腎機能低下の傾向が強い。

 

③腎専門医診療と予後の関連は妥当か?

年齢, 性別, 人種, 社会背景, 併存症を調整変数として多変量解析が行われているが、尿蛋白など調整が不十分な可能性は残る(residual confounding)。

PSマッチングを用いた解析も行っているが、腎専門診療の適応に関わる背景要因(indication bias)は完全に排除できない(専門医群でESKDリスクが高いのは、もともとESKDに移行しやすい患者を診ているからかもしれない)。

Landmark解析によってsurvival bias(immortal time bias)の影響は軽減されている。

観察研究であり、介入として腎専門医診療が生命予後を改善するかわからない(介入として腎専門医診療は透析導入を増やす(?)かは不明)。

 

自分の患者にあてはまるか?(外的妥当性)

米国退役軍人が対象で人種, 基礎疾患, 社会背景が日本人と大きく異なることから、日本人に対して同じ結果が得られるかわからない。またstage G4以上のCKD患者を対象としており、早期のCKD患者の予後については言及できない。

 

コメント

進行したCKD患者に対する腎専門医の診療が、良好な生命予後と関連する可能性が示された一方で、逆にESKD発症とも関連する結果となっています。後者はindication biasや早めの透析導入の影響も考えられますが、既に進行してしまったCKD患者に対する腎予後改善効果は期待できないのかもしれません。CKD患者に対して、どのタイミングで腎臓内科医が介入すべきか、どのような介入を行うべきか、その介入がどのアウトカムを改善させるのか、腎臓内科診療にとって本質的なテーマであり、より具体的な目標、介入、検証が必要です。

 

参考文献 

①CKD患者に対する腎専門医への早期紹介とESKD抑制との関連を検証したメタ解析。観察研究のみでRCTなし。予後改善の可能性を示唆。②早期CKD患者に対する腎専門医診療と腎, 心血管, 生命予後の関連を検証した米国の観察研究(CRIC)。予後と有意な関連なし。③CKD患者に対する腎臓病療養指導を介入とした日本のRCT(FROM-J)。GRF低下の抑制効果はstage G3のみで有意(stage全体では有意差なし)。

Early referral to specialist nephrology services for preventing the progression to end-stage kidney disease. Cochrane Database Syst Rev. 2014;(6):CD007333.

Influence of Nephrologist Care on Management and Outcomes in Adults with Chronic Kidney Disease. J Gen Intern Med. 2016;31:22.

Effect of Behavior Modification on Outcome in Early- to Moderate-Stage Chronic Kidney Disease: A Cluster-Randomized Trial. PLoS One. 2016;11:e0151422.