Nephrologist

腎臓内科医を対象とした抄読会の内容をお届けします。どのように論文を吟味し臨床に役立てるのか意識することで、論文は知識をupdateする情報ではなく、臨床力をupgradeするツールとなります。

NAFLDの患者は、CKD発症のリスクが高いのか?

Development of Chronic Kidney Disease in patients with Non-Alcoholic Fatty Liver Disease: A cohort study.

J Hepatol. 2017;67:1274-1280. PMID: 28870674

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28870674

 

1.背景   

非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)とCKDの関連について数多く報告されているが、縦断研究は少なく対象者も限られており、NAFLDとCKD発症の関連性は明らかではない。

 

2.論文の定式化(PICO/PECO

 

P:18歳以上の非CKD患者 ※1

E:NAFLD ※2

C:非NAFLD

O:CKD発症(CKD-EPI式でeGFR<60)

※1 eGFR≧60かつ蛋白尿<1+(2回以上測定)

※2 超音波診断/viral, alcoholic肝炎は除外

 

3.研究デザイン 統計解析

後ろ向きコホート研究, Cox回帰モデル

年齢, 性, 喫煙, 飲酒, 血圧, 血糖, 脂質異常にて層別解析

 

4.結果の吟味

41430名の健診受診者(韓国)が対象, CKDは除外, 平均49歳, 男61%

平均BMI24, eGFR91, 非喫煙49%, 適度な飲酒55%, DM7.4%, 高血圧24%

 

中央値4.2年間でCKD発症691名(1.7%)

非NAFLDでのCKD発症率 2.8/1000人年

NAFLDでのCKD発症率 4.7/1000人年

NAFLDの方がCKD発症リスクは高くNAFLDの重症度とも関連。

HR1.21(95%CI 1.03-1.44)(層別解析で交互作用なし)

 

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 研究結果は妥当なものか?(内的妥当性) 

① NAFLD群と非NAFLD群で背景は等しいか?

性, BMI, 喫煙歴, DM, 高血圧といった患者背景が群間で異なっており、交絡要因として予後に影響しうる(NAFLD群の方が男, 喫煙歴が多く、DM, 高血圧の併存も多い)。

 

②NAFLDは正しく評価されているか?

超音波検査に基づいており肝生検による診断、重症度分類ではない。またベースラインでの評価であり、その後の経過は不明。

 

③ NAFLDとCKD発症の関連性は妥当か?

NAFLDとCKD発症の関連について、多くの調整因子を用いて多変量解析を行っている。しかし観察研究のため調整が不十分である可能性(residual confounding)は残る。またアウトカムがeGFRであり、その後の治療としてRAS阻害薬やSGLT2阻害薬の使用や、体重・筋肉量の変化によるeGFRへの影響は否定できない。

NAFLDのCKD発症への影響はハザード比として相対的に有意であるが、絶対的なリスクはそれ程大きくない(CKD発症率の群間差は1.9/1000人年)。

 

自分の患者にあてはまるか?(外的妥当性)

本研究は韓国の健診受診者が対象で、人種やBMIといった背景は日本人に近い。CKD患者は本研究の対象外であり、CKD患者へのNAFLDの影響はわからない。

 

コメント

アジア人を対象としてNAFLDとCKD発症が関連する可能性が示されました。本研究は観察研究であり、NAFLDがCKD発症にどれほど直接的に関与するのか慎重な評価を要します。また、そのインパクトを過大評価しないことも大切です。しかしNAFLDはmultifactorialな病態が背景にあり、他のCKD発症リスクとの併存も多く、腎臓内科医が診療上配慮すべき重要な要素であることに変わりはありません。同様に、NAFLDの改善や進行抑制がCKD発症にどれだけ予防的に働くかは本研究からはわかりませんが、NAFLDの発症・進展に関与する肥満, DM, 高血圧, 脂質異常といった病態に対して適切な対応が必要なことは論を俟たないでしょう。ただし、NAFLDがCKD患者に及ぼす長期的影響(腎予後, 生命予後)については改めて検討が必要です。

 

参考文献 

①は国内ガイドライン。CKDの関連についても言及。②は総説。よくまとまっている。③は観察研究のメタアナリシス。NAFLDとCKD発症の間に有意な関連あり。④はCKD患者(eGFR<60または蛋白尿あり)のNAFLDと腎機能低下の関連についての観察研究(本論文と同じグループからの報告)。⑤は肝移植後の腎機能に関する論文。NASHを原因とする肝移植患者では非NASHと比べ腎機能が低下(NASHそのものよりも背景にある病態が腎機能低下に関与する可能性を示唆)。

 

①  NAFLD/NASH診療ガイドライン2014. 日本消化器病学会. https://www.jsge.or.jp/guideline/guideline/pdf/NAFLD_NASHGL2_re.pdf

② CKD and nonalcoholic fatty liver disease. Am J Kidney Dis. 2014;64:638. 

③ Nonalcoholic fatty liver disease increases risk of incident chronic kidney disease: A systematic review and meta-analysis. Metabolism. 2018;79:64. 

④ Nonalcoholic fatty liver disease accelerates kidney function decline in patients with chronic kidney disease: a cohort study. Sci Rep. 2018;8:4718. 

⑤ Renal function in patients undergoing transplantation for nonalcoholic steatohepatitis cirrhosis: time to reconsider immunosuppression regimens? Liver Transpl. 2011;17:1292.