Nephrologist

腎臓内科医を対象とした抄読会の内容をお届けします。どのように論文を吟味し臨床に役立てるのか意識することで、論文は知識をupdateする情報ではなく、臨床力をupgradeするツールとなります。

保存期CKDの体重変化は、透析導入後の死亡と関連するか?

Longitudinal Weight Change During CKD Progression and its Association with Subsequent Mortality.

Am J Kidney Dis. 2018; 71: 657-65. 

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=29217305

 

1.背景   

CKD患者の腎機能低下に伴う体重変化についてはよく知られておらず、また保存期CKD患者の透析導入前の体重変化と透析導入後の死亡の関連についても明らかではない。

 

2.論文の定式化(PICOPECO

P:eGFR20-70の成人(CRIC研究※)

E:eGFR<35からESKDの体重変化が-5%/年

C:eGFR<35からESKDの体重変化が ±5%/年

O:透析導入後の死亡

※Chronic Renal Insufficiency Cohort(米国)

(患者登録 2003-8年)

 

3.研究デザイン 統計解析

前向きコホート研究(観察研究)

生存時間分析(Cox回帰モデル)

 

4.結果の吟味

◎保存期CKD患者の腎機能低下に伴う体重変化

3933人の米国CKD患者が対象, 平均BMI 32.1

CKD患者の体重はeGFR<35からが減少傾向

eGFRが年間10減少すると体重は1.45kg減少 (95%CI 1.19-1.70)

eGFR<35で尿中Cre, 血清LDL, Alb, 除脂肪体重(FFM)も減少傾向

 

◎透析導入前の体重変化と導入後の死亡の関連

上記3933人のうち透析導入した770名が対象 観察期間5.7年

平均58歳, 男59%, 黒人54%, 喫煙歴58%, DM68%, 高血圧97%, 心疾患44%

体重<−5%/年のハザード比は ±5%/年と比べ1.54(95%CI 1.17-2.03)

体重>+5%/年のハザード比は ±5%/年と比べ1.09(95%CI 0.66-1.79)

 

上記は米国AASK研究(登録1995-2001年, 黒人1067名, BMI31, 非DM ※)と概ね同様の結果。

※Afirican American Study of Kidney Disease & Hypertension

 

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 研究結果は妥当なものか?(内的妥当性) 

① 体重減少群, 不変群, 増加群で背景は同等か?

本研究では体重減少群、不変群、増加群の背景の違いが記されていない(SupplementにはeGFR35の時点での肥満度の違いのみ記載 ※)。予後に影響しうる要因が群間で異なれば、交絡として予後に影響しうる。

※論文のTable1はCRICとAASKの比較。主解析の群間比較ではない。

 

② 保存期の体重減少と透析導入後の死亡の関連性は妥当か?

保存期の体重減少と透析導入後の死亡の関連を検討する際に、年齢, 性, 人種, 収入, DM, 高血圧, 心疾患, 喫煙歴 を調整変数とした多変量解析が行われているが、他の背景要因は考慮されておらず、調整が不十分である可能性(residual confounding)は残る。

本研究は観察研究であり、介入として体重減少を防ぐことが透析導入後の予後改善に役立つかはわからない。

 

③ 暴露要因の体重減少は何を意味するのか?

本研究ではeGFR<35での体重減少に伴い、尿中Cre, 血清LDL, FFM, 血清Albも減少傾向にあり、体重減少の原因が栄養障害(Protein Energy Wasting)による筋肉減少である可能性を示しているが、実際はわからない(体水分減少の影響を否定できない)。

体重減少が、食事制限や利尿剤使用などCKDへの意図的な介入によるのか、CKDそのものの自然経過なのか、わからない。

 

自分の患者にあてはまるか?(外的妥当性)

本研究は米国のCKD患者が対象であり、人種やBMI、社会背景が日本人と大きく異なることから、日本人に対して同じ結果が得られるかわからない。また、予後解析は透析導入患者を対象としているため、透析未導入のCKD患者の予後については言及できない。

 

コメント

透析患者ではBMIが低いほど予後不良でありReverse Epidemiology/Obesity Paradoxとして知られています。本研究では、より早期の保存期CKDにおけるBMI低下が、透析患者の死亡と関連している可能性が示されました。透析患者の予後改善のために透析導入前(保存期CKD)からの介入が有効なのかは、この観察研究からはわかりませんが、今後の腎臓病ケアを考える上で示唆に富む内容です。腎臓内科医として保存期・透析・移植といった縦割りの治療・ケアを積極的に見直す時期かもしれません。

 

参考文献 

透析患者のBMIと予後に関するReverse Epidemiology(RE)の論文は多く①は年齢・透析歴によらず、②は人種によらず、REを示している。③は日本の透析患者でREを検証した論文。Cr値(筋肉量)による交互作用を示唆している。④は透析導入前(保存期CKD)の状態・変化と透析導入後の患者予後の関連についての総説。よくまとまっている。

 

① Effect of age and dialysis vintage on obesity paradox in long-term hemodialysis patients. Am J Kidney Dis. 2014;63:612.

② Mortality predictability of body size and muscle mass surrogates in Asian vs white and African American hemodialysis patients. Mayo Clin Proc. 2013;88:479.

③ Serum Creatinine Modifies Associations between Body Mass Index and Mortality and Morbidity in Prevalent Hemodialysis Patients. PLoS One. 2016;11:e0150003.

④ Transition of care from pre-dialysis prelude to renal replacement therapy: the blueprints of emerging research in advanced chronic kidney disease. Nephrol Dial Transplant. 2017;32(suppl_2):ii91.