Nephrologist

腎臓内科医を対象とした抄読会の内容をお届けします。どのように論文を吟味し臨床に役立てるのか意識することで、論文は知識をupdateする情報ではなく、臨床力をupgradeするツールとなります。

多発性嚢胞腎に対する腹膜透析は、有益なのか?

Outcome of autosomal dominant polycystic kidney disease patients on peritoneal dialysis: a national retrospective study based on two French registries.

Nephrol Dial Transplant. 2018;33:2020. 

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=29361078

 

1.背景   

常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)は、腎容積が拡大し大腸憩室と腹壁ヘルニアの頻度も高いことから、多くの腎臓内科医はADPKD(PKD)の末期腎不全(ESKD)に対する腹膜透析に対して懸念がある。

 

2.論文の定式化(PICOPECO

① P:PKDのESKD患者

  E:腹膜透析(PD)

  C:血液透析(HD)

  O:(主) 死亡   (副)腎移植

 

② P:PD患者

  E:PKD

  C:非PKD

  O:(主)死亡   (副)PD離脱, 腹膜炎

 

3.研究デザイン 統計解析

後向きコホート研究(観察研究)

生存時間分析(Fine & Grayモデル/競合リスクを考慮)

 

4.結果の吟味

①REIN registry(フランス)

PKDのPD患者638名とHD患者4653名の比較。

5年死亡:PD12%, HD14%, 調整HR1.19(0.87-1.63)

腎移植:PD60%, HD50%, 調整HR1.23(1.06-1.41)

 

②RDPLE registry(フランス)

PD患者でPKD797名と非PKD12059名の比較。

3年死亡:PKD10%, 非PKD31%, 調整HR0.56(0.45-0.69)

PD離脱:両群で差なし(Figure)

腹膜炎:PKD32%, 非PKD35%, 両群で差なし

 

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研究結果は妥当なものか?(内的妥当性)

①群間の背景は同等か?

REIN registryでは、PDの方がHDよりも背景として予後がよさそうな患者が多く(女性, 若年, アルブミン高値, 非DM, 心血管病既往が少ない)、RDPLE registryでは、PKDの方が非PKDよりも背景として予後がよさそうな患者が多い(女性, 若年, 合併症が少ない)。また、両registryともに腎容積に関する情報がなく、腎容積の群間差についてわからない。

 

②PKDにおけるPD選択と予後の関連は妥当か?

患者背景が群間で異なることに対し、多変量解析にて調整しているが、治療選択に伴うバイアス(indication bias)の影響を免れない(予後がよさそうなPKD患者がPDを選択している可能性を否定できない)。また、臨床的に重要と考えられる腎容積が解析には考慮されていない。

 

③2つの観察研究の意義について

REIN registryとRDPLE registryはともにPKDに対するPDの研究として意義があるが、論点(PECO)が全く異なる。診療(治療選択)の観点からは、前者の方が有用なPECOと考えられる(診療上PD/HDは選択できるが、原疾患は選択できない/modifiable factorではない)。

 

自分の患者にあてはまるか?(外的妥当性)

本研究はフランス(およびフランス領)の腎不全患者が対象であり、人種や社会背景が日本と異なるために、日本人を対象に同様の結果が得られるかはわからない。医療背景についても、腎代替療法として腎移植を施行する割合が日本と比べて著しく高い。

 

コメント

本研究は、PKDのPD患者が、腎臓内科医が心配するほど予後不良ではない可能性を示しており、「PKDはPDの適応に乏しい」という偏見を払拭する点で意義があります。しかしこの結果から、患者背景によらず「PKD患者にPD, HDのどちらを選択しても予後は同等」とは言えず、「PKD患者にPDを選択した方が非PKD患者にPDを選択するよりも予後良好」と言うこともできません。治療選択には理由があり、PDに適した患者を選ぶのが腎臓内科医の役割である以上、そのバイアスを取り除くことは極めて困難です。本研究のようにRCTが困難なテーマでは観察研究が不可欠ですが、治療効果の検証に関しては特に慎重な吟味が必要となります。

 

参考文献 

①PKDに対するPDについての総説。問題点の整理に役立つ。②PKDのPDに対するSystematic Review & Meta-analysis。なお、PKDと非PKDの比較であり、PKDのPDとHDの比較ではない。③PKDの腎容積・肝容積とPD関連アウトカムについての論文。PKDに対するPDの適応・限界について考える上で示唆に富む。

Peritoneal Dialysis for Patients with Autosomal Dominant Polycystic Kidney Disease. Perit Dial Int. 2017;37:384.

Outcome of polycystic kidney disease patients on peritoneal dialysis: Systematic review of literature and meta-analysis. PLoS One. 2018;13:e0196769.

Peritoneal Dialysis is Limited by Kidney and Liver Volume in Autosomal Dominant Polycystic Kidney Disease. Ther Apher Dial. 2015;19:207.