Nephrologist

腎臓内科医を対象とした抄読会の内容をお届けします。どのように論文を吟味し臨床に役立てるのか意識することで、論文は知識をupdateする情報ではなく、臨床力をupgradeするツールとなります。

コーヒーを摂取している人は、CKD発症のリスクが低いのか?

Coffee Consumption and Incident Kidney Disease: Results from the Atherosclerosis Risk in Communities (ARIC) Study.

Am J Kidney Dis. 2018;72:214-22.

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=29571833

 

1.背景   

コーヒーを適度に摂取していると、糖尿病、冠動脈疾患、悪性腫瘍などの慢性疾患や死亡のリスクが低いと報告されているが、コーヒー摂取と慢性腎臓病(CKD)の関連性ははっきりしていない。

 

2.論文の定式化(PICOPECO

P:一般成人(45~64歳)

E:コーヒーを飲む ※

C:コーヒーを飲まない

O:①CKD発症 ②末期腎不全(ESRD)発症

※ 1日あたり 1杯未満, 1~2杯未満, 2~3杯未満, 3 杯以上に分類

 

3.研究デザイン 統計解析

前向きコホート研究(観察研究)

生存時間分析(Cox回帰モデル)

性, 人種, 喫煙, DM, 身体活動度, DASH食 ※ にて層別解析(交互作用を検討)

※ Dietary Approaches to Stop Hypertension

 

4.結果の吟味

14209人の米国一般住人(白人と黒人のみ)が対象(ARIC研究)

CKD患者は除外, 患者平均 約54歳, BMI約28, Cr約0.7, eGFR約104

コーヒー摂取なし19%,<1杯 21%, 1-2杯 25%, 2-3杯15%, ≧3 杯 19%

 

24-5年間でCKD3845名(27%), ESRD281名(2%) 

コーヒー摂取が多いとCKD発症リスクは有意に低い。層別解析で交互作用なし。

コーヒー摂取とESRD発症リスクの関連は、多変量解析にて有意差なし。

 

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 研究結果は妥当なものか?(内的妥当性) 

①コーヒー摂取量は正しく評価されているか?

実測ではなくインタビュー調査に基づいており、コーヒー摂取量が正しく評価されているとは限らないが、訓練された問診者が詳細な質問票を用いて2回評価している。なお、コーヒー摂取量はベースラインで評価され、その後の摂取量の変動は考慮されていない。

 

②コーヒー摂取が多い群と少ない群で背景は等しいか?

性、人種、学歴、BMI、併存症、喫煙歴、飲酒歴などの患者背景が群間で異なっており、交絡要因として予後に影響しうる(コーヒー摂取量が多い方が男性、白人が多く、高学歴で、糖尿病や高血圧の併存は少ないが、一方で喫煙者や飲酒者も多い)。しかし、これらの要因は、統計解析上、調整変数として考慮されている。

 

③コーヒー摂取とCKD・ESRD発症の関連性は妥当か?

コーヒー摂取とCKD・ESRD発症の関連を検討する際に多変量解析で調整をしているが、背景因子として尿蛋白は考慮されていない。また観察研究のため、多変量解析を行っても調整が不十分である可能性(residual confounding)は残る。ただし、コーヒー摂取量が多い群で喫煙者が多いことから、必ずしも効果を過大評価するバイアスだけではない。

コーヒー摂取とESRD発症の関連は調整後に有意でなかったが、ESRD発症数が少なく統計学的パワーが不足していた可能性はある。

コーヒー摂取がCKD発症のリスクを下げる(腎保護的に働く)機序が明らかでない。成分のカフェインは腎血流の増加に影響しているか?コーヒー摂取量が水分摂取量を反映して、単に脱水予防が腎保護に影響した可能性はないか?

 

自分の患者にあてはまるか?(外的妥当性)

本研究では米国の一般住民が対象で、人種やBMI等の背景が日本と異なり、同様の結果となるかわからない。また、年齢は45~64歳に限られている。CKD患者は本研究の対象外であり、CKD患者へのコーヒーの影響はわからない。

 

コメント

本研究の結果からすると、CKDでない人がコーヒーを摂取することは、腎保護の観点から悪いことではなさそうです(CKD患者に関してはわかりません)。しかし本研究は観察研究であり、コーヒーが腎保護的に働く機序も明らかでないため、結果の解釈には慎重を要します。少なくとも「腎臓病の一次予防としてコーヒーを摂取した方がよい」と結論づけることはできません。このような食品に関する研究では、結果が誤って解釈・報道されることがしばしばあるため注意しましょう。

 

参考文献 

①は白人を対象として、②は白人以外を対象として、コーヒー摂取が良好な生命予後と関連することを示した観察研究。なお①ではカフェインフリーのコーヒーでも同様な結果が得られている。③はコーヒー摂取と腎臓病発症との関連について4つの観察研究を統合したメタ解析。この解析では有意な結果は出ていない。

 

Association of Coffee Consumption With Overall and Cause-Specific Mortality in a Large US Prospective Cohort Study. Am J Epidemiol. 2015;182:1010.  

② Association of Coffee Consumption With Total and Cause-Specific Mortality Among Nonwhite Populations. Ann Intern Med. 2017;167:228. 

③ Association of coffee consumption and chronic kidney disease: A meta-analysis. Int J Clin Pract. 2017;71:e12919.