赤身肉の摂取は、末期腎不全のリスクか?
Red Meat Intake and Risk of ESRD.
J Am Soc Nephrol. 2017;28:304-312.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=27416946
1.背景
CKD患者においては、蛋白質(特に動物性蛋白)の制限による腎保護効果の可能性が示されている。一方で、一般人口における蛋白質(または赤身肉のような特定の蛋白源)の摂取がESKDのリスクとなるかは明らかではない。
2.論文の定式化(PICO/PECO)
P:45~74歳の一般住民
E:赤身肉の摂取が多い※
C:赤身肉の摂取量が少ない
O:ESKD発症
※1 赤身肉の摂取量を四分位(Q1-4)で評価
※2 総蛋白摂取量と、蛋白源としての赤身肉, 鶏肉, 魚介, 卵, 乳製品, 豆類に分類して評価
3.研究デザイン & 統計解析
前向き観察研究(population-based cohort)
生存時間分析(Cox回帰)
4.結果の吟味
シンガポール在住中国人60198名が対象。登録時のESKD, 癌患者は除外。平均56歳, BMI 23, DM1割, 高血圧2割, 喫煙3割, 週30分以上の運動3~4割。
平均蛋白摂取量(g/日)は 53.1±10.3(Q1)~65.3±9.0(Q4)。
観察期間中央値15.5年でESKD発症951人。
ESKD発症リスク:
①蛋白摂取と正相関(量依存性に有意でない)
調整HR(Q4+3+2 vs Q1): 1.24[95%CI 1.05-1.46]
②赤身肉摂取と正相関(量依存性に有意)
調整HR(Q4 vs Q1): 1.40[95%CI 1.15-1.71]
③豆類摂取と負の相関(有意性はborderline)
研究結果は妥当なものか?(内的妥当性)
①赤身肉の摂取量は正しく評価されているか?
実測ではなく質問調査に基づいており、蛋白質や赤身肉の摂取量が必ずしも正しく評価されていない可能性がある。ただし先行研究で妥当性が示された食事質問票を用いている。
蛋白質や赤身肉の摂取量は登録時に評価され、その後の摂取量の変動は考慮されていない。
②赤身肉摂取量が異なる群間で背景は同等か?
摂取量の少ない群で運動習慣の頻度が高く、野菜・果物の摂取量が多い。また、登録時のCr値やGFRは測定されておらず、腎機能の群間差は不明である。
②赤身肉摂取量とESKD発症の関連は妥当か?
解析では年齢, 性, 民族, 教育水準, 喫煙, 飲酒, BMI, 運動習慣, 既往疾患, 蛋白源別摂取量(赤身肉, 鶏肉, 魚介, 卵, 乳製品, 豆類, 野菜, 果物)等の多くの調整変数が用いられているが、調整が不十分な可能性は残る(residual confounding)。
ベースの腎機能が不明であり、結果に影響しうる(赤身肉摂取が多い群でベースの腎機能がもともと低下している可能性が否定できない)。
本研究は観察研究であり、介入として赤身肉の摂取を減らすことがESKD発症の改善に役立つかはわからない。
自分の患者にあてはまるか?(外的妥当性)
本研究はアジアの一般成人が対象であり、人種やBMIといった背景は日本人に近い。しかし、健常者が対象であり、CKD患者に対する赤身肉摂取の影響についてはわからない。
コメント
本研究では、赤身肉摂取が量依存性にESKD発症のリスクである一方で、総蛋白摂取量が量依存性にESKD発症のリスクではなかったことから、摂取する蛋白質の内容・質が腎予後に影響する可能性を示す点で、非常に興味深い研究です。しかし本研究は介入研究ではなく観察研究であり、またベースの腎機能が評価されておらず群間差も明らかでないことから、因果関係の評価と臨床への応用については慎重を要します。蛋白源として赤身肉の摂取が腎障害を引き起こす機序については検討が必要です。
参考文献
①②赤身肉とCKD発症の関連を検証した論文(米国ARIC/イラン)。①は関連あり②は関連なし。人種や食習慣の違いが影響しているかもしれない。③④食物による酸負荷とCKD発症, ESKD発症の関連を示した論文(米国ARIC/NHANES)。動物性蛋白の過剰摂取が腎臓によくない根拠となる可能性あり。⑤WHOの報告。やや古いが健常者の蛋白必要量について詳説。一般成人の蛋白制限は推奨していないが、そもそも一般成人の蛋白摂取量として0.83g/kg/日を推奨。
①Dietary Protein Sources and Risk for Incident Chronic Kidney Disease: Results From the Atherosclerosis Risk in Communities (ARIC) Study. J Ren Nutr. 2017;27:233.
②The association between Dietary Approaches to Stop Hypertension and incidence of chronic kidney disease in adults: the Tehran Lipid and Glucose Study. Nephrol Dial Transplant. 2017;32(suppl_2):ii224.
③Dietary Acid Load and Incident Chronic Kidney Disease: Results from the ARIC Study. Am J Nephrol. 2015;42:427.
④High Dietary Acid Load Predicts ESRD among Adults with CKD. J Am Soc Nephrol. 2015;26:1693.
⑤Protein and amino acid requirements in human nutrition. Report of a joint FAO/WHO/UNU expert consultation (WHO Technical Report Series 935). http://www.who.int/nutrition/publications/nutrientrequirements/WHO_TRS_935/en/