Nephrologist

腎臓内科医を対象とした抄読会の内容をお届けします。どのように論文を吟味し臨床に役立てるのか意識することで、論文は知識をupdateする情報ではなく、臨床力をupgradeするツールとなります。

血尿が寛解するとIgA腎症の予後は改善するか?

Remission of Hematuria Improves Renal Survival in IgA Nephropathy.

JASN 2017; 28: 3089-99.

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=28592423

 

1.背景   

IgA腎症が末期腎不全(ESKD)に進展する予測因子として高血圧, 診断時の腎機能, 経過中の尿蛋白が知られている。しかし血尿がESRD進展と関連するか検証した報告は少ない。

 

2.論文の定式化(PICOPECO

P:IgA腎症患者 

E:血尿の持続 (H+) ※

C:血尿の寛解 (H-) ※

O:①ESRD ②eGFR50%低下 ③eGFR低下速度

※観察期間平均URBC (TA-URBC)

 H+: >5/hpf, H-: ≦5/hpf

 

3.研究デザイン 統計解析

過去起点コホート研究/Cox回帰

尿蛋白(UP)※, 免疫抑制治療(IS)の有無で層別化

※UP+: >0.75g/日

 

4.結果の吟味

IgA腎症患者112名(スペイン単施設)が対象。DM, 二次性IgAN, HSPNの患者は除外。

男性7割, 白人96%, 平均42歳, ベースラインのsCr1.8, eGFR58, UP1.4g/日, URBC50/hpf

(ベースラインで血尿陰性の患者はなし)

治療: RASI 84%, IS 39%, ステロイド投与期間 7±7ヵ月

 

平均観察期間14年で17%がESRDへ進展

outcomeごとの比較 (H+ vs H-)

①ESRD:11% vs 30% (P =0.01)

②eGFR50%低下: 15% vs 37% (P =0.01),

③eGFR年次低下速度: -1.5 vs -3.3 (P =0.06)

 

H+はESRDのリスク, 調整HR2.8 (1.1-7.3)

血尿陰性化前後のeGFR低下速度: 前-6.5±14.8 vs 後-0.2±2.6 (P=0.001)

 

層別解析ではISの有無で予後に差なし

H+かつUP+の群は予後不良

H+かつUP+の群ではISの有無で予後に差なし

 

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研究結果は妥当なものか?(内的妥当性) 

①暴露として血尿寛解を正しく捉えているか

本研究が着目している“血尿”はベースライン値ではなく、観察期間平均(time average, 平均14年間で6ヶ月毎検査の平均)の値である。これによって血尿寛解を簡潔かつ巧みに評価している一方、血尿の推移のvariationを捉えられない(平均値が同じでも、観察期間の前半・後半のどちらで血尿の程度が強かったか区別できず、臨床経過が全く異なる可能性がある)。

 

②H+とH-の患者間で背景は等しいか?

年齢, 性, 人種, 腎機能, 内服薬は群間で有意差なし。H+で病理Mスコアが有意に高く、尿蛋白と病理Sスコアの差はMarginal。MEST以外の病理所見や喫煙, 肥満は記載なく群間差は不明。

 

③血尿寛解と腎予後の関連性は妥当か?

多変量解析にて血尿寛解と腎予後の有意な関連が示されているが、本研究の症例数は多くなく調整因子の数も限られており、調整が不十分な可能性(residual confounding)は否定できない。

約4割の患者がIS(平均7.3ヵ月)を受けているが、治療適応が不明瞭で交絡(indication bias)の可能性がある。ISと腎予後に有意な関連はなく結果の解釈に慎重を要する。

UP, ISの有無で層別した解析は統計学的に検定されておらず十分な評価とは言えない(症例数が多くなく解析上やむを得ない)。

 

自分の患者にあてはまるか?(外的妥当性)

スペインのIgA腎症患者が対象であり、人種や医療体制(腎生検や治療の適応, 治療内容)が日本と異なり、同様の結果が得られるかわからない(日本では治療として扁摘摘出やステロイドパルスを行うが、一方でMMF, AZA, CYC(エンドキサン)は通常使用しない)。また、本研究の対象は比較的若年で中等度以上の腎機能低下と蛋白尿を呈する患者であり、蛋白尿が軽微な患者や高齢者にあてはまるかわからない。

 

コメント

IgA腎症の特徴である血尿の寛解が、尿蛋白とは独立して腎予後と関連し、IgA腎症の治療指標となる可能性を示した点で、インパクトのある研究です。血尿が改善するとなぜ腎予後が改善するのか、その病態を改めて考える上でも示唆に富んでいます。一方で本研究は観察研究であり、治療選択に伴うバイアスを考慮すると、多変量解析の結果であっても解釈には慎重を要します(“血尿は予後と関連しない”とする先行研究の結果との違いをどのように解釈し臨床に応用するのか、臨床力が問われます)。少なくともIgA腎症に対する薬剤治療の効果について本論文で論じることは控えた方がよさそうです。

 

参考文献 

①は本論文のEditorial。IgA腎症の血尿に対する海外の認識を知る上で参考となる。②は中国のコホート。血尿と腎予後の関連を示唆。③④日本のコホート。蛋白尿の有無でそれぞれ解析しているが、ともに血尿と腎予後の間に有意な関連なし。

① Persistent Microscopic Hematuria as a Risk Factor for Progression of IgA Nephropathy: New Floodlight on a Nearly Forgotten Biomarker. J Am Soc Nephrol. 2017;28:2831. 

② Long-term renal survival and related risk factors in patients with IgA nephropathy: results from a cohort of 1155 cases in a Chinese adult population. Nephrol Dial Transplant. 2012;27:1479. 

③ Effect of hematuria on the outcome of IgA nephropathy with mild proteinuria. Clin Exp Nephrol. 2015;19:815.

④ Effect of hematuria on the outcome of immunoglobulin A nephropathy with proteinuria. J Nephropathol. 2016;5:72.