Nephrologist

腎臓内科医を対象とした抄読会の内容をお届けします。どのように論文を吟味し臨床に役立てるのか意識することで、論文は知識をupdateする情報ではなく、臨床力をupgradeするツールとなります。

肥満のCKD患者に対して、減量手術は腎機能を改善するか?

Estimated GFR Before and After Bariatric Surgery in CKD. 

Am J Kidney Dis. 2017; 69: 380-8.

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=27927587

  

1.背景   

Bariatric Surgery(減量手術) は長期的に減量を維持でき、肥満関連健康障害の改善効果も良好であることが高いエビデンスレベルで証明されているが、CKD患者における減量手術の腎機能への影響を検証した報告はない。

※ 本邦では腹腔鏡下スリーブ胃切除術(SG)が2014年に保険収載され、6ヶ月以上の内科的治療によっても十分な効果が得られないBMI≧35かつ糖尿病・高血圧または脂質異常症の1つ以上を合併している患者が適応。

 

2.論文の定式化(PICOPECO

P:CKDstage3~4の肥満患者

E:減量手術あり(手術群)                        

C:減量手術なし(非手術群 / 紹介のみ)

O:eGFR(CKD-EPI式)の変化量

※Roux-en-Y胃バイパス術(RYGB) vs SGも検討

 

3.研究デザイン 統計解析

後向きコホート研究(観察研究)

傾向スコア(PS)マッチング (eGFR, 年齢, 体重, 性, 人種, 高血圧, DM)

経時測定データを用いた線形混合効果モデル

 

4.結果の吟味

1428人の米国肥満CKD患者が対象(手術あり714人/なし714人)

平均58歳, 女性77%, 非ヒスパニック系白人56%, 体重135kg, BMI 44

DM67%, 高血圧91%, Cr1.5 (eGFR50), RAS阻害薬の内服6~7割

 

手術vs非手術:手術群で1年後35kg減量, 3ヵ月後ΔeGFR+15.0

RYGB vs SG:RYGB群の方が体重減少, 3ヵ月後ΔeGFRの差+4.4 

術後(紹介後)3年間のeGFR変化:手術群>非手術群, RYGB>SG

術後(紹介後)30日間の再入院率:RYGB8% vs SG7% vs 非手術7.5%

 

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研究結果は妥当なものか?(内的妥当性) 

①手術と非手術、RYGBとSGで背景は同等か?

本研究は観察研究であり、手術群と非手術群の背景が異なることを前提に、ベースラインのeGFR, 年齢, 体重, 性, 人種, DM, 高血圧を変数とするPSマッチングを行っているが、群間差は残存している。これに対し多変量解析を行い、上記の変数を調整因子として考慮している。RYGBとSGの群間差についても同様。

 

②eGFRは腎機能の指標として適切か?

本研究では手術群と非手術群の腎機能(eGFR)の経過を比較しているが、手術による減量には急減な筋肉量低下を伴うため、筋肉量を反映するCr値で推定されるeGFR (CKD-EPI式) を腎機能の指標として比較するのは適切とは言えない。RYGB群とSG群の比較でも、両群で減量効果が異なることから、同様の理由で腎機能の比較妥当性は担保されない。本テーマで研究を行う際にはGFRを実測するか、筋肉量を反映しないCys-Cを用いたeGFRを腎機能の指標として用いるのが望ましい。

 

③減量手術による腎機能改善は妥当な推論か?

PSマッチに加え多変量解析による結果でも、手術と非手術、RYGBとSGの群間でeGFRに有意な差(手術、RYGBの治療効果)を認めた。しかし血圧、尿蛋白、HbA1cといった因子は考慮されておらず、背景要因が十分に調整されていない可能性がある。また本研究では、手術治療の効果を推定しているが、手術の選択に伴うバイアス(indication bias)も大きく影響していると考えられるため、手術治療そのものが腎機能改善に直接寄与するのかはわからない。

 

自分の患者にあてはまるか?(外的妥当性)

本研究は米国のCKD患者が対象であり、人種やBMIが日本人と大きく異なるため、日本人を対象に同様な結果が得られるかはわからない。

 

コメント

本研究は、前後比較ではなく対照群を用いて減量手術の効果を示した点で有意義です。しかし①手術選択に伴うバイアス ②アウトカムの不適切性 の点から、推論の妥当性が高いとは言えません。①は観察研究での治療効果の推論には治療選択に伴うバイアスの影響を排除できず、評価には慎重を要します。②は血清CrによるeGFRは筋肉量の影響を強く受けるため、両群の腎機能を適切に比較できません。肥満による腎障害には病態としてhyperfiltrationが関与しており、減量手術後は糸球体ろ過圧が減少し、短期的にはGFR低下が予想されますが、本研究では手術後早期にGFRがむしろ上昇しています。これは単に筋肉量低下の影響で見かけのeGFRが上昇した可能性があり、腎機能そのものの変化なのかわかりません。減量で多くの健康関連指標が改善しますが、減量手術そのものが肥満CKD患者の腎機能を改善させるかどうか、本研究から結論づけるには限界があります。

 

参考文献 

①は減量手術の効果についてRCTに基づいたシステマティックレビュー(SR)。腎機能に関しては言及なし。②は減量手術の腎機能への効果についてのSR。ただし対象論文はすべて前後比較の観察研究。③は総説。よくまとまっている。④は減量手術後の腎機能の変化を見た論文。糸球体ろ過圧の低下を裏付けるように、1年後のRPF, GFR, ACRはともに低下した。

 

① Surgery for weight loss in adults. Cochrane Database Syst Rev. 2014;(8):CD003641.  

② Effects of Bariatric Surgery on Renal Function in Obese Patients: A Systematic Review and Meta Analysis. PLoS One. 2016;11:e0163907.  

③ Bariatric Surgery and Kidney-Related Outcomes. Kidney Int Rep. 2017;2:261. 

The effects of weight loss on renal function in patients with severe obesity. J Am Soc Nephrol. 2003 Jun;14(6):1480-6.