Nephrologist

腎臓内科医を対象とした抄読会の内容をお届けします。どのように論文を吟味し臨床に役立てるのか意識することで、論文は知識をupdateする情報ではなく、臨床力をupgradeするツールとなります。

カフェイン摂取はCKD患者の生命予後と関連するか?

Caffeine consumption and mortality in chronic kidney disease: a nationally representative analysis.

Nephrol Dial Transplant. 2018  [Epub ahead of print]

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=30215779

 

1.背景   

一般人口ではコーヒー摂取と死亡リスクの間に負の関連があることが報告されている。しかしCKD患者におけるカフェイン摂取と死亡リスクの関連については不明である。

 

2.論文の定式化(PICOPECO

 

P:18歳以上のCKD患者 ※1

E:カフェイン摂取が多い ※2

C:カフェイン摂取が少ない ※2

O:(主)全死亡

      (副)心血管死, 腫瘍死

※1: eGFR15-60 or ACR>30mg/gCr, 透析患者は除外

※2: 四分位による分類

 

3.研究デザイン 統計解析

後向きコホート研究, Cox回帰モデル

CKD stage(G)とアルブミン尿(ACR)で層別解析(交互作用を検討)

カフェイン源であるコーヒー, 紅茶, 清涼飲料の摂取と予後について追加解析

 

4.結果の吟味

4863人の米国CKD患者が対象(NHANES研究)

患者平均 60歳, BMI29, DM23%, 心筋虚血既往15%, eGFR65, ACR40mg/gCr

カフェイン摂取(中央値/日) Q1: 3mg, Q2: 65, Q3: 148, Q4: 316

※コーヒー100mlのカフェイン含有量の目安は60mg

 

中央値 60ヶ月間の観察で1283名(26%)が死亡。

カフェイン摂取量と総死亡は負の関連。

HR(Q1:対照) Q2: 0.74(0.60-0.91), Q3:0.75(0.61-0.92), Q4:0.75(0.59-0.97)

カフェイン摂取量と心血管死, 腫瘍死では有意な関連なし。

 

層別解析でCKD stage, ACRに交互作用なし。

追加解析でコーヒー, 紅茶と総死亡に有意な関連なし。清涼飲料と総死亡に有意な関連あり。

 

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 研究結果は妥当なものか?(内的妥当性) 

①カフェイン摂取量は正しく評価されているか?

実測ではなく1日分の食事アンケート調査に基づいている。カフェイン摂取量はベースラインのみで評価され、その後の摂取量の変動は考慮されていない。また、飲料以外のカフェイン摂取量は評価されていない。

 

②カフェイン摂取が多い群と少ない群で背景は等しいか?

カフェイン摂取が多い群で、男性, 白人, 高い教育レベル, 高収入, 喫煙, アルコール摂取が多く、脳梗塞が少なく、食事に関してはカリウム摂取が多く、炭水化物・食物繊維の摂取が少なく、不飽和脂肪酸/飽和脂肪酸の比が低かった。これらは交絡要因として予後に影響しうるが、統計解析上は調整されている。

 

③カフェイン摂取と総死亡の関連性は妥当か?

多変量解析を行っているが、栄養状態や身体活動性など他の交絡の調整が不十分な可能性は残る(residual confounding)。ただしカフェイン摂取が多い群に喫煙者が多く、必ずしも効果を過大評価するバイアスだけではない。

コーヒーによるカフェイン摂取と総死亡の関連は有意でなかったが、主解析と比しイベント数が少なく統計学的パワー不足の可能性はある。一方、清涼飲料によるカフェイン摂取と総死亡の関連は有意だが、因果関係が逆転しているかもしれない(元気な人がカフェイン入り清涼飲料を飲んでいた可能性を否定できない)。

 

自分の患者にあてはまるか?(外的妥当性)

本研究では米国のCKD患者が対象で、人種やBMI等の患者背景や生活環境が日本と異なり、同様の結果となるかわからない。

 

コメント

本研究の結果からは、CKD患者のカフェイン摂取が、生命予後の観点から悪いことではなさそうです。しかし本研究は観察研究であり、カフェインが生命予後を改善する機序も明らかでないことから、「CKD患者は生命予後の点からカフェインを摂取した方がよい」と結論づけることはできません。また、コーヒーによるカフェイン摂取とCKD患者の生命予後との関連は有意ではなく、本研究からCKD患者のコーヒー摂取の是非について言及することは控えた方がよいでしょう。

 

参考文献 

①は一般人口を対象にカフェイン摂取が良好な生命予後と関連することを示した米国の観察研究(NHANES)。②③は一般人口を対象にコーヒー摂取が良好な生命予後と関連することを示した米国と日本の観察研究。④は一般人口を対象にコーヒー摂取が多いとCKD発症リスクが低いことを示した米国の観察研究(ARIC)。過去ログ参照。

https://nephrologist.hatenablog.com/entry/2018/09/19/062315

 

Association Between Caffeine Intake and All-Cause and Cause-Specific Mortality: A Population-Based Prospective Cohort Study. Mayo Clin Proc. 2017;92:1190. 

Association of coffee drinking with total and cause-specific mortality. N Engl J Med. 2012;366:1891. 

Association of coffee intake with total and cause-specific mortality in a Japanese population: the Japan Public Health Center-based Prospective Study. Am J Clin Nutr. 2015;101:1029.