Nephrologist

腎臓内科医を対象とした抄読会の内容をお届けします。どのように論文を吟味し臨床に役立てるのか意識することで、論文は知識をupdateする情報ではなく、臨床力をupgradeするツールとなります。

高齢者における腎不全治療の方針は、予後と関連するか?

Treatment Plans and Outcomes in Elderly Patients Reaching Advanced Chronic Kidney Disease.

Nephrol Dial Transplant. 2018 [Epub ahead of print] 

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=29562353

 

1.背景   

高齢社会において透析導入患者の年齢は上昇傾向にあり、75歳以上の透析患者は国際的に全体の30%以上を占めている。高齢者腎不全に対する腎代替療法のより良い選択・決定には、その予後についての把握が必要である。特に透析を希望しない、あるいは治療選択を先送りにする高齢患者での予後は明らかでない。

 

2.論文の定式化(PICOPECO

P:75歳以上でeGFR20以下の患者

E:治療方針として

 ①未決定(stable)

 ②医師の判断で非導入(ND-Ne)

 ③患者の意志で非導入(ND-Pt)

C:治療方針として透析導入(dialysis)

O:全死亡(透析導入の有無は考慮せず)

※副次アウトカム ①透析導入 ②導入前死亡 ③導入後死亡

 

3.研究デザイン 統計解析

多施設共同前向きコホート研究

生存時間解析(Coxモデル, Fine-Grayモデル)

 

4.結果の吟味

高齢腎不全573名(フランス), 平均82歳, eGFR14(中央値) 

登録時の方針: stable40%, dialysis38%, ND-Ne12%, ND-Pt9%

平均観察期間34.5月で 透析導入288名(50%), 透析導入前死亡37名(42%), 透析導入後死亡178名(31%), 5年生存率27%

 

登録時の方針と全死亡に関連あり。

(ただしKM曲線のみで調整HR記載なし)

 

登録時の方針と ①透析導入 ②導入前死亡 にも関連あり。

①ND-Ne 調整HR 0.02(95%CI 0.003-0.14 vs Dialysis)

②Dialysis 調整HR 0.28(95%CI 0.17-0.45 vs ND-Ne)

 

透析導入患者の事前方針:dialysis82%, stable9%, ND-Pt8%

ND-Pt群で年齢が高く、緊急導入やカテーテル挿入での導入が多いが、死亡リスクは有意に高くはなかった(調整HR1.54 95%CI 0.84-2.85)。

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研究結果は妥当なものか?(内的妥当性) 

①治療方針の異なる群間で背景は等しいか?

登録時のND-Ne群, ND-Pt群で年齢が高く、行動異常, 痴呆, ADL低下の頻度が高い。透析導入患者の解析でもND-Pt群はより高齢で緊急導入やカテーテル挿入での導入が多い。

 

②腎不全の治療方針と死亡の関連性は妥当か?

治療方針を医師が確認しており、患者・家族の意志を正しく反映していない可能性がある。また経過中に方針変更となった患者の影響も考慮が必要である。少なくとも、方針決定・変更におけるプロセスについては明らかではない。

群間の背景が十分に調整されていない可能性がある(総死亡をアウトカムとした主解析では群間の患者背景は全く考慮されていない)。

治療方針選択におけるバイアス(indication bias)が大きく、因果関係の推論は困難である(方針として透析リスクの高い患者は非導入、元気な患者は透析導入となる可能性がある)。

 

③本研究のアウトカムである「死亡」をどう捉えるか?

後期高齢者が対象であり、死亡リスクの解釈が臨床的に極めて重要である。治療方針による終末期の予後の差が、患者・家族の意志やQOLにどのような影響をもたらすのか、本研究の結果からだけではわからない。

 

自分の患者にあてはまるか?(外的妥当性)

フランスの高齢者が対象で人種や社会背景が日本と大きく異なることから、日本人に同様にあてはまるかわからない。また、腎臓病患者を対象としており、一般内科医が診ている高齢患者の治療方針と予後については言及できない。

 

コメント

この研究は、深刻化する高齢社会における腎不全治療・ケアを考える上で、示唆に富んでいます。高齢者腎不全に対する治療方針が生命予後と関連しているとは言え、5年間で4割が透析導入前に死亡、5割が透析導入、そして透析導入の6割(全体の3割)が透析導入後2年以内に死亡という状況で、患者さん、家族、医療者にとって、この結果がどのような意味をもつのか、より重要なアウトカムは何なのか、プロセスはどうあるべきなのか、十分に吟味する必要があるでしょう。完全なパターナリズムはもはや時代錯誤ですが、患者さん・家族の意向を尊重し適切な情報を提供した上で、よりいい形で治療方針を指導(誘導)してあげられることも、臨床医の力量の1つかもしれません。

 

参考文献 

①高齢者では透析後の身体機能が大きく低下する可能性あり。②高齢者の血液透析HD)では透析時間を除くとHD導入後の実質的な生活時間の延長効果は乏しいかもしれない。③75歳以上の高齢腎不全患者では、保存的治療と透析治療で生命予後の差はないかもしれない。④高齢者の透析に関する論文のCommentary。問題提起として的を射ている。⑤高齢透析患者の透析離脱や緩和ケアに関する論文。高齢者の透析導入と併せて検討すべき重要な課題である。

 

① Functional status of elderly adults before and after initiation of dialysis. N Engl J Med. 2009;361:1539.

② Is maximum conservative management an equivalent treatment option to dialysis for elderly patients with significant comorbid disease? Clin J Am Soc Nephrol. 2009;4:1611.

③ Survival of elderly patients with stage 5 CKD: comparison of conservative management and renal replacement therapy. Nephrol Dial Transplant. 2011;26:1608.

④ Mortality in the Elderly on Dialysis: Is This the Right Debate? Clin J Am Soc Nephrol. 2015;10:920.

⑤ End of Life, Withdrawal, and Palliative Care Utilization among Patients Receiving Maintenance Hemodialysis Therapy. Clin J Am Soc Nephrol. 2018;13:1172.