胎児期の発育は、成人のCKD発症と関連するか?
Prenatal Growth and CKD in Older Adults: Longitudinal Findings From the Helsinki Birth Cohort Study, 1924-1944.
Am J Kidney Dis. 2018;71:20-26.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=28838764
1.背景
胎児期・生後初期の環境が高血圧, 糖尿病, 冠動脈疾患といった成人疾患の発症に関与しているという概念(Developmental Origins of Health and Disease/DOHaD)が近年注目されている。DOHaDはCKDの発症・進行にも関連すると考えられており、低出生体重とCKD発症の関連が報告されているが、出生から高齢まで観察されている研究は少ない。
2.論文の定式化(PICO/PECO)
P:出生から死亡または86歳まで追跡できた人
E:胎内発育※が不良, または早期産
C:胎内発育※が良好, または正期産
O:CKD発症※※
※出生時体重, 体格指数, 胎盤重量, 出生時身長
※※CKDでの死亡または入院から推定
3.研究デザイン & 統計解析
前向きコホート研究(観察研究)
生存時間分析(Cox比例ハザードモデル)
4.結果の吟味
ヘルシンキ大学病院で出生した20431名が対象(出生: 1924-33年7086名, 1934-44年13345名)。
CKD発症は375名(1.8%)。そのうち男性226名(2.1%), 女性149名(1.5%)でCKD診断時の年齢はそれぞれ64.3歳, 64.9歳。
出生時体重は男女ともCKD発症と有意に関連。出生時体重1SDあたりHR:0.82(0.74-0.91)。
体格指数, 胎盤重量, 出生時身長は、男性のみ、CKD発症と有意に関連。
早期産(34週未満)は、女性のみ、CKD発症と有意に関連。
研究結果は妥当なものか?(内的妥当性)
①群間の背景は同等か?
性別の患者背景は記載されているが、本研究で着目している胎内発育や在胎週数による背景の違いは記されていない。予後に影響しうる要因が群間で異なれば交絡として予後に影響しうるが、本研究では群間差はわからない。
②胎児発育と成人CKD発症の関連は妥当か?
解析では性、出生年、社会経済的背景(父親の職業、成人後の職業)が考慮されているが、その他の交絡要因に対する調整が不十分な可能性は残る(residual confounding)。
本研究は、CKDをInternational Classification of Disease(ICD)で定義し、GFRや尿蛋白で評価していない。またCKD発症を「CKDでの死亡あるいは入院」としてデータから抽出しており、外来での診断は含まれていない。以上よりCKD発症を過小評価している可能性があるが、それでも有意差は検出されている。
自分の患者にあてはまるか?(外的妥当性)
本研究はヘルシンキ(フィンランド)の一般人口が対象で、人種や社会背景が日本と異なるため、日本人で同様の結果が得られるかはわからない。また、1924~44年に誕生し1971年の時点で生存していた患者を対象にしており、現在の環境でもあてはまるかはわからない。
コメント
本研究は大規模かつ長期的な観察データを基に、胎児期の発育がその後のCKD発症と関連する可能性を示した点
参考文献
①低出生体重とCKD発症に関するSystematic Review(SR)。このSRではCKDをGFRと尿蛋白でキチンと定義している。②低出生体重とESKD発症に関する観察研究。200万人が対象で①に含まれる。低出生体重のESKD発症リスクは若年者(≦14歳)でより高い可能性を示唆。③低出生体重と糸球体数・糸球体サイズの関連に関する横断的研究。④糸球体数・糸球体サイズと腎臓病の関連に関する総説。③④はDOHaDの病態を考える上で参考となる。
①Is low birth weight an antecedent of CKD in later life? A systematic review of observational studies. Am J Kidney Dis. 2009;54:248.
②Low birth weight increases risk for end-stage renal disease. J Am Soc Nephrol. 2008;19:151.
③Glomerular number and size in autopsy kidneys: the relationship to birth weight. Kidney Int. 2003;63:2113.
④Glomerular number and size variability and risk for kidney disease. Curr Opin Nephrol Hypertens. 2011;20:7.