Nephrologist

腎臓内科医を対象とした抄読会の内容をお届けします。どのように論文を吟味し臨床に役立てるのか意識することで、論文は知識をupdateする情報ではなく、臨床力をupgradeするツールとなります。

CKD患者の高尿酸血症に対する治療は、腎予後を改善するか?

Febuxostat Therapy for Patients With Stage 3 CKD and Aymptomatic Hyperuricemia: A Randomized Trial (FETHER Study)

Am J Kidney Dis. 2018. [Epub ahead of print] PMID: 30177485

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=30177485

 

1.背景   

先行研究では高尿酸血症の改善がCKD進行を抑制することが示されているが、エビデンスは十分ではない。キサンチンオキシダーゼ阻害薬の早期CKDにおける有用性も不確かである。

 

2.論文の定式化(PICOPECO 

P:CKDstage3で無症候性高尿酸血症※ の患者

I :フェブキソスタット(介入群)※※

C:プラセボ(比較群)

O:eGFRの経年変化 (ΔeGFR/年) 

※組入基準 尿酸:7-10mg/dl

※※1日量:1-3週 10mg, 4-7週 20mg, 8-108週 40mg

 

3.研究デザイン 統計解析

多施設共同二重盲検ランダム化プラセボ比較試験 (RCT)

Intention to treat (ITT) 解析

層別解析(性, 年齢, 尿酸値, 尿蛋白, BMI, DM, CKD stage, Cr値, 喫煙, 併存疾患)

 

4.結果の吟味

20歳以上の日本人467人が対象, 平均 65歳, 男77%, BMI24, DM30%, CKD Stage3a 50%, 尿酸値 7.8mg/dl。介入群でSBPが有意に高く、ACE-I/ARB内服が多い。

 

観察期間108ヵ月。ΔeGFR(ml/min/1.73m2/year)は2群間で有意差なし。

介入群0.23±5.26 vs 比較群−0.47±4.48, p=0.1

層別解析では蛋白尿陰性, 血清Cr低値で有意差あり(交互作用あり)。

有害事象は群間で有意差なし。

 

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 研究結果は妥当なものか?(内的妥当性) 

①介入群と比較群で背景は同等か?

介入群でSBPがやや高くACE-I/ARBの内服もやや多いが、RCTとして動的割付が行われており、両群のバランスは概ね保たれている。

 

②介入と予後の関連は妥当か?

RCTでランダム割付が行われておりベースラインの群間差は吸収しうる範囲内である。またITT解析であるが割付後の脱落も少なく、交絡要因の影響は少ない。

サンプル数の設定に際して、先行研究に基づき両群のΔeGFRの差を2.7ml/min/1.73m2/year として計算しているが(プロトコール論文(参考文献①)を参照)実際の差は小さかった。その点は臨床的かつ統計学的に吟味が必要である。

 

自分の患者にあてはまるか?(外的妥当性)

日本人が対象で我々の患者にはあてはめやすい(ただし異なる人種で同様の結果が得られるかわからない)。また、尿酸値が7~10mg/dlのCKDstage3患者に限定されており、より尿酸高値の患者や、stage1,2または4,5のCKD患者への効果は言及できない。HbA1c≧8.4のDM, SBP≧160, DBP≧100, 重症合併症, 腎移植なども研究対象から除外されている。

 

コメント

無症候性高尿酸血症のCKD stage3患者を対象にした興味深いRCTですが、FebuxostatのCKD進行抑制効果についてプラセボとの有意差を検出できませんでした。Febuxostatの効果は予想よりも小さかったようです。一方、尿蛋白や血清Cr値が交互作用を有しており、病態と薬理作用の推察と併せ、患者に応じた治療差別化(テーラーメイド化)についての示唆を含みます。過去の観察研究の結果も併せて考えると、CKDに対する高尿酸血症の介入は、より早期の段階でないと効果が期待できないのかもしれません。

 

参考文献 

①本研究のプロトコール論文。②米国の観察研究(CRIC)。高尿酸血症はGFR高値群では腎障害リスクであるが、GFR低値群では腎保護的に働く可能性あり。過去ログ参照。

https://nephrologist.hatenablog.com/entry/2018/09/12/073446

③2017年のメタアナリシス。尿酸低下療法の可能性について示唆。進行中の3研究に言及しており本研究(FETHER Study)がその1つ。④英国の観察研究。痛風患者へのアロプリノール投与がCKD発症を抑制する可能性について示唆。

 

The effect of febuxostat to prevent a further reduction in renal function of patients with hyperuricemia who have never had gout and are complicated by chronic kidney disease stage 3: study protocol for a multicenter randomized controlled study. Trials. 2014;15:26. 

Uric Acid and the Risks of Kidney Failure and Death in Individuals With CKD. Am J Kidney Dis. 2018;71:362.

Uric acid lowering therapies for preventing or delaying the progression of chronic kidney disease. Cochrane Database Syst Rev. 2017;10:CD009460.

Association of Chronic Kidney Disease With Allopurinol Use in Gout Treatment. JAMA Intern Med. 2018;178:1526-1533.