Nephrologist

腎臓内科医を対象とした抄読会の内容をお届けします。どのように論文を吟味し臨床に役立てるのか意識することで、論文は知識をupdateする情報ではなく、臨床力をupgradeするツールとなります。

便秘はCKD発症と関連するか?

Constipation and incident CKD.

J Am Soc Nephrol. 2017;28:1248-58.

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=28122944

 

1.背景   

便秘症はプライマリケア領域で一般的な症状だが、一方で心血管イベント発生のリスクであり、腸内細菌関連の炎症が原因とされている。便秘が炎症と関連するのであれば、同じ機序でCKD発症のリスク要因となる可能性があるものの、実際に検討した研究はない。

 

2.論文の定式化(PICO/PECO)

P:18歳以上の非CKD患者(eGFR≧60) 

E:便秘症がある

C:便秘症がない

O:①CKD発症 ②ESKD発症 ③eGFR低下※

※①eGFR<60かつベースラインから25%低下

※②透析導入 or 先行的腎移植

※③5段階評価 (<-10, ~-5, ~-1, ~0, ≧0)

  

3.研究デザイン & 統計解析

後向きコホート研究, Cox回帰(①②), Logistic回帰(③)

年齢, 性, 人種, 併存症, eGFR, 収入で層別解析

傾向スコア(PS) マッチングによる解析

 

4.結果の吟味

米国退役軍人3504732名が対象(うち7%が便秘症)。患者平均 60歳, 男93%, 黒人15%, BMI29, DM25%, CHD11%, eGFR84, RASI内服22%。

 

中央値7年間で CKD発症17.2/千人年, ESKD発症0.39/千人年, eGFR低下<-10: 3.7%, -10~-5: 5.9%, -5~-1: 27.9%。便秘症があるとアウトカムに有意な関連あり。

①CKD発症: HR1.13(1.11-1.14)

②ESKD発症: HR1.09(1.01-1.18)

③eGFR低下: OR (<-10):1.17(1.14-1.20), (~-5):1.07(1.04-1.09), (~-1):1.01(1.00-1.03)

 

層別解析、PSマッチングでも同様の結果 

 

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研究結果は妥当なものか?(内的妥当性)  

①便秘症は正しく評価されているか?

60日以上離れて2回の便秘症(ICD-9)の診断がついている場合、または、30日以上の下剤処方が60日以上(365日以内)に2回以上されている場合を便秘症の定義とし、下剤の処方数に基づいて便秘症の重症度を評価している。これは便秘症の診断を過小評価あるいは過大評価している可能性があり、結果に影響を与えうる。

 

②便秘症がある群とない群で背景は等しいか?

便秘症がある群の方が高齢で、黒人, (HIV/AIDSを除く)併存症, 低収入, 未婚の割合が多い。これらは交絡要因として予後に影響しうるが、統計解析上は調整されている。

 

③便秘症と腎予後の関連性は妥当か?

多変量解析で便秘症と腎予後の有意な関連が示されているが、効果量(点推定値)は大きくなく、症例数が多く統計学的パワーが大きいために有意差を検出できている。また、観察研究であり調整が不十分な可能性は残るが(residual confounding)、一方でPSマッチングによる感度分析で同様の結果が得られている。

 

自分の患者にあてはまるか?(外的妥当性)

米国退役軍人が対象で人種, 基礎疾患, 社会背景が日本人と大きく異なり、男性がほとんどであることから、日本人あるいは女性に対して同様な結果が得られるかわからない。また非CKD患者(eGFR≧60)を対象としており、CKD患者の便秘と腎予後の関連については言及できない。

 

コメント

プライマリケア領域でよく見られる便秘症が、CKD発症リスクである可能性を示した点でインパクトのある研究です。一方で、病態として便秘がなぜ腎予後と関連するのか、そのメカニズムについて慎重に検討する必要があります。ひょっとしたら、他の予後悪化因子の結果として便秘を見ている、あるいは、治療薬である下剤がむしろ腎予後を悪化させている可能性も否定できません。少なくとも、便秘症を予防・治療することで腎予後が改善するかどうかについては、本研究の結果から言及できません。

 

参考文献 

①腸内細菌と心血管病に関する総説。②日本人が対象。下剤使用は心血管死のリスクだが、便秘(排便が2,3日毎や4日毎以上)はリスクではなかった。③米国女性が対象。排便回数が多いこと(1日2回以上)は死亡リスクであった。④CKDと腸内細菌に関する総説。⑤CKD患者に対するprobiotics(pre-, synbioticsを含む)の効果を検証したSystematic Review。腎機能低下, 心血管病に対し有意な効果は認められなかった。

① The contributory role of gut microbiota in cardiovascular disease. J Clin Invest. 2014;124:4204.

② Bowel Movement Frequency, Laxative Use, and Mortality From Coronary Heart Disease and Stroke Among Japanese Men and Women: The Japan Collaborative Cohort (JACC) Study. J Epidemiol. 2016;26:242.

③ Associations of Bowel Movement Frequency with Risk of Cardiovascular Disease and Mortality among US Women. Sci Rep. 2016;6:33005.

④ Role of the Gut Microbiome in Uremia: A Potential Therapeutic Target. Am J Kidney Dis. 2016;67:483. 

Biotic Supplements for Renal Patients: A Systematic Review and Meta-Analysis. Nutrients. 2018;10. pii: E1224.