Nephrologist

腎臓内科医を対象とした抄読会の内容をお届けします。どのように論文を吟味し臨床に役立てるのか意識することで、論文は知識をupdateする情報ではなく、臨床力をupgradeするツールとなります。

CKD患者の高尿酸血症は末期腎不全・死亡のリスクなのか?

Uric Acid and the Risks of Kidney Failure and Death in Individuals With CKD.

Am J Kidney Dis. 2018; 71: 636-47. 

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=29132945

 

1.背景   

尿酸は腎臓で排泄されるため、慢性腎臓病(CKD)で血清尿酸値は上昇する。CKD患者における高尿酸血症が、末期腎不全(腎死)や死亡のリスクとなるかは明らかではない。

 

2.論文の定式化(PICOPECO

P:CKD stage 2~4の成人患者

E:血清尿酸値が高値

C:血清尿酸値が低値

O:①末期腎不全(腎死) ②死亡

 

3.研究デザイン 統計解析

前向きコホート研究(観察研究)

生存時間分析(Cox回帰モデル)

性、尿酸低下薬、BMI、eGFRによる層別解析(交互作用を検討)

 

4.結果の吟味

3885人の米国CKD患者が対象(CRIC研究)

妊娠、心不全HIV、骨髄腫、PCKD、腎癌、免疫抑制療法、移植の患者は除外

平均58歳, 女性45%, 白人42%, 黒人42%, BMI32, 高血圧86%, DM49%, 心疾患33%

内服:RAS阻害薬 69%, β遮断薬49%, スタチン46%, 利尿薬60%, 尿酸低下薬10%

 

7.9年で腎死885名(23%), 死亡789名(20%) 

尿酸値と腎死の関連においてeGFRは交互作用

高尿酸血症は eGFR≧45で腎死の高リスク、eGFR<30で低リスク)

尿酸値と死亡と関連はJカーブを描く

(高尿酸・低尿酸血症はともに死亡のリスク)

 

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研究結果は妥当なものか?(内的妥当性) 

① 高尿酸と低尿酸の患者間で背景は等しいか?

年齢、性、人種、BMI、併存症、腎機能、尿アルブミン、内服薬などの患者背景が群間で異なっており、交絡として予後に影響しうる(高尿酸値群の方が男、黒人が多く、BMI高値で、DM、高血圧、心血管病の併存も多い)。しかし解析上は、これらの要因は調整変数として考慮されている。

 

② 尿酸値と腎死・死亡の関連性は妥当か?

尿酸値が腎死・死亡に有意に関連することが示されているが、腎機能低下に伴う尿酸排泄低下によって血清尿酸値が上昇することから、尿酸値と予後の間には大きな交絡が存在する(高尿酸血症によって腎機能が低下するのではなく、単に腎機能低下の結果として高尿酸血症を見ているかもしれない)。そのため多変量解析でも調整が不十分な可能性(residual confounding)が否定できない。

尿酸値はベースライン値であり、経過中の尿酸値の変動は考慮されていない。

尿酸値と死亡の関連はJカーブを描き、低尿酸血症も死亡リスクであるが、本解析では栄養状態が十分に考慮されておらず、単に低栄養が予後不良なことを見ているだけかもしれない。

 

自分の患者にあてはまるか?(外的妥当性)

本研究では米国のCKD患者が対象であり、人種やBMIが日本人と大きく異なることに加え、尿酸低下薬の使用頻度が日本よりも著しく低い(これは診療ガイドラインの違いに基づくと推察される)。これらの背景の違いによって、日本人を対象に同様の結果が得られるかはわからない。また、心不全免疫抑制剤使用などの患者は本研究の対象外であり言及できない。

 

コメント

CKD患者の尿酸値が腎死・死亡と関連しており、患者の予後予測に役立つ可能性があります。尿酸値と腎死の関連において腎機能が交互作用をもつことも有益な情報です。しかし本研究が観察研究であり、腎機能低下が尿酸値上昇を伴うことから生じるバイアスの影響を考慮すると、多変量解析の結果であっても解釈には慎重を要します。本研究からは高尿酸血症の治療の有効性を議論できないため、治療を行うかは、介入研究から判断しなくてはなりません。

 

参考文献 

①は国際的な診療ガイドライン。②は日本の診療ガイドライン(日本語あり)。③④⑤は介入研究(RCT)。なお⑤はCKD stage3に対するfebuxostatのeGFR低下速度への効果を検証した日本の研究だが、介入群で有意差なし(サブグループでは有意差あり)。

 

① Multinational evidence-based recommendations for the diagnosis and management of gout: integrating systematic literature review and expert opinion of a broad panel of rheumatologists in the 3e initiative. Ann Rheum Dis. 2014;73:328.  

② Japanese guideline for the management of hyperuricemia and gout: second edition.  Nucleosides Nucleotides Nucleic Acids. 2011;30:1018.  

Effect of allopurinol in chronic kidney disease progression and cardiovascular risk. Clin J Am Soc Nephrol. 2010;5:1388. 

④ Efficacy of Febuxostat for Slowing the GFR Decline in Patients With CKD and Asymptomatic Hyperuricemia: A 6-Month, Double-Blind, Randomized, Placebo-Controlled Trial. Am J Kidney Dis. 2015;66:945. 

⑤ Febuxostat Therapy for Patients With Stage 3 CKD and Asymptomatic Hyperuricemia: A Randomized Trial. Am J Kidney Dis. 2018. [Epub ahead of print]